ブロックチェーンプロジェクトにどこまで非中央集権性を持たせるか。CBDC発行の動きが再燃 − 7月前半の重要ニュース(7/1~7/15)

今回は、7月前半(7月1日〜7月15日)の暗号資産・ブロックチェーン業界重要ニュースについて、田上智裕氏(@tomohiro_tagami)が解説したコラムを公開します。

目次

  1. 日本銀行がCBDC発行に向けた技術的課題を公表
  2. COVID-19と闘う医療現場へ暗号資産で寄付
  3. ファンド持分をトークン化
  4. USDCの一部凍結により再燃する非中央集権性の議論
  5. DEXの出来高が国内大手取引所を上回る
  6. まとめ・著者の考察

7月前半の暗号資産・ブロックチェーン業界は、改めてブロックチェーンの非中央集権性について着目した議論が巻き起こりました。また、日本からもCBDCに関する本格的な動きが出ています。本記事では、7月前半の重要ニュースを解説と共におさらいしていきます。

日本銀行がCBDC発行に向けた技術的課題を公表

日本銀行は2日、CBDCの発行に伴う技術的な課題についてまとめたレポート「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」を公開しました。

昨今、新型コロナウイルスの影響により各国でデジタル通貨の必要性が議論されています。今回発表されたレポートでは、CBDCには「現金と同等の機能を持たせる必要がある」と説明されました。

大きな要件としては「ユニバーサル・アクセス(Universal Access)」と「強靭性(Resilience)」があげられています。前者は、「誰もがいつでもどこでも、安全で確実に利用できる決済手段」と定義され、電子端末の操作が難しい子供や高齢者を考慮しなければならないとしました。後者については、災害時でも利用できるようにオフライン決済の機能が必要になると説明されています。

そして上記の要件を満たすために、CBDCが有するべき機能として次の項目がまとめられました。

  • CBDCの利用対象者が制限されないこと
  • 子供から高齢層まで幅広い世代が利用できること
  • 訪日外国人観光客も利用できること
  • 個人から法人への送金(店舗決済など)で利用できること
  • 個人間も含めた双方向の送金(P2P取引)で利用できること
  • ユーザーのプライバシーを確保すること
  • AML/CFTへの対応といったコンプライアンス上の課題を解決すること

本レポートでは、ブロックチェーンを活用するとは明言せず「ブロックチェーンを含む分散型台帳技術(DLT)の活用は期待できる」という表現に留めました。また日本銀行は、CBDCを発行する上での懸念点として、利用者の安全性やプライバシーの保護、マネーロンダリングへの対応などをあげています。

【参照記事】中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題
【参照記事】Bank of Japan explores prospects of a digital Yen

COVID-19と闘う医療現場へ暗号資産で寄付

世界最大手取引所Binanceを中心に設立された慈善団体Blockchain Charity Foundation(BCF)が、新型コロナウイルスと最前線で闘う医療現場の方々へ、医療用マスクや防護具を支援する活動を行なっています。

この活動は「Crypto Against COVID」と称され、現在も世界中で行われています。日本でも6月13日から開始しており、現在までに400万ドルを超える寄付がビットコインを通して集まりました。

ブロックチェーンおよび暗号資産を使った寄付は、従来の寄付には無かった透明性をもたらします。BCFによる寄付の活動も、こちらのサイトを通して確認することが可能です。

【参照記事】Blockchain Charity Foundation Crypto Against COVID

ファンド持分をトークン化

デジタル資産への投資事業を運営する米Arcaが、米国証券委員会(SEC)に認可されたファンド「Arca U.S. Treasury Fund」の提供を開始しました。

当ファンドの特徴は、ファンドへの出資者に対して持分に連動する量のデジタル証券「ArCoin」を発行する点です。これは、持分のトークン化ともいえるスキームであり、いわゆるセキュリティトークンの一種だといえます。

ArCoinはブロックチェーン上に発行されるデジタル証券であり、1単位ごとの持分(出資のリターンを得る権利)に応じて付与される設計となっています。証券法に準拠した、イーサリアムのERC-1404を使って発行されます。

ファンドの持分をトークン化した理由として、ArcaでCEOを務めるRayne Steinberg氏は次のように述べました。「暗号資産の登場により、規制下にある金融商品に新たなデジタル資産が追加された。今回の取り組みは、従来の金融商品と新たなデジタル資産を統合する革新的な第一歩である」。

なおSEC認可のファンドのうち、デジタル証券を発行するものは、1940年制定の投資会社法下では初の事例となりました。

【参照記事】ファンド持分をデジタル証券で管理 米SECが認可
【参照記事】Arca Labs Launches Ethereum-Based SEC-Registered Fund

USDCの一部凍結により再燃する非中央集権性の議論

世界最大手取引所CoinbaseとCircleによって設立されたCENTRE社の発行する、ステーブルコインUSD Coin(USDC)の一部が、運営元によって凍結されました。

凍結されたUSDCはハッキング被害に合った可能性が高いものであり、CENTRE社が当局からの要請を受けた経緯が背景にあります。このニュースが話題になったのは、「ブロックチェーンを使って発行されたステーブルコインが、運営元によってコントロールされて良いのか」という点です。

凍結の擁護派は、AML/CFTの観点から必要な対応であるという見解を示しました。一方の懐疑派は、Decentralization(非中央集権)の性質を指摘しています。

今回の一件は、昨今成長著しいDeFi市場にまで波紋を広げました。DeFi市場の主要通貨として流通しているステーブルコインDaiが、USDCを担保に発行されているためです。論点を整理すると次の通りになります。

  1. USDCはDaiの生成手段(担保資産)として採用されている
  2. 凍結されたUSDCを担保にDaiが生成されていた場合、そのDaiの価値はどうなるのか(担保資産に価値がある前提でDaiは発行されている)
  3. つまり、USDCに当局の意見が反映されるのであれば、それはDaiにも影響するといえる
  4. これはDeFiの根幹を揺るがす事態なのではないか

DeFi市場にまで波及した議論は、「ブロックチェーンにどこまで非中央集権性を求めるか」という議論を巻き起こしました。規制(AML/CFT)と非中央集権性はトレードオフの関係にあることが多く、事業者にとってこの議論は永遠のテーマともいえます。
このような経緯から、近年のブロックチェーン産業で提唱されているのが、「実用最小限の非中央集権性(MVD:Minimum Viable Decentralization)」という考え方です。これは、新規事業を立ち上げる際の考え方である「実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)」を元にして生まれました。

最初から完全な非中央集権は困難なものの、徐々に分散化させていこうという考え方であり、非常に理に適っているといえるのではないでしょうか。

【参照記事】イーサリアム上のドル”USDC” 初のブラックリストで凍結実行
【参照記事】Blocked USDC in Ethereum Address Proves Decentralization Purists Right

DEXの出来高が国内大手取引所を上回る

昨今成長著しいDeFi市場の中核を担う分散型取引所(DEX)Uniswapにおける24時間の出来高が、4500万ドル(約48億円)を突破しました。これは、国内大手取引所bitFlyerにおける24時間の出来高(約3200万ドル)を大きく上回る数値となっています。

利用者に地域差はあるものの、DEXの成長を測る上で非常にポジティブな要素だといえるでしょう。

Uniswapは、DeFi市場の中心に位置するサービスであり、現状ほとんど全てのDeFiサービスがUniswapとの連携を行なっています。特徴としては、特定の管理者が存在しないため取引可能な通貨ペアを、ユーザーが自由に作成することができる点があげられます。

2020年5月にVer.2がリリースされて以降、機能面ではVer.2、流動性ではVer.1といった状態でした。6月に入ってからは流動性でもVer.2が上回り、順調な成長を遂げています。

これまで、使い勝手の面でDEXよりもCEX(中央集権型取引所)の方が出来高が出ていました。しかしながら、DeFi市場の成長と共にDEXが急激な発展をみせ、ここにきて出来高でCEXを上回る結果となったのです。

【参照記事】「まさにパラダイムシフト」分散型仮想通貨取引所Uniswapの出来高、国内大手取引所を抜く
【参照記事】Uniswap V2 surpasses Uniswap V1 on liquidity

まとめ・著者の考察

新型コロナウイルスの影響から、各国でCBDCを含むデジタル通貨についての議論が加熱し始めて久しいですが、ようやく日本でも本格的な動きが出てきました。USDCの一部凍結に関するトピックでも登場しましたが、ブロックチェーンを活用するのであれば分散性を考慮しなければ意味がありません。

CBDCを発行する場合、従来の通貨のように完全な中央集権型ではなく、分散性を取り入れる必要があると考えています。なぜなら、Web3.0の時代はこれまで以上にグローバルかつソフトウェア(デジタル化)重視となるため、特定の管理者が支配するような社会では不都合が多すぎるためです。

一方で、国という経済圏が存在する以上は、完全な非中央集権性は実現できないと考えるべきでしょう。いかに落とし所を見つけていくかが重要な要素となりそうです。

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田上智裕

田上智裕

株式会社techtec 代表取締役。リクルートホールディングスでの全社ブロックチェーンR&Dを経験後、2018年に株式会社techtecを創業。「学習するほどトークンがもらえる」ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営。メディアでの執筆や海外での講演などを中心に、ブロックチェーン業界の発展にコミットしている。