暗号資産で変わる資金調達。新たな手法と会計処理について解説

今回は、著者である田上智裕氏(@tomohiro_tagami)がAaveから資金調達を行った際の実体験を踏まえ、暗号資産による資金調達や会計処理について解説していただきました。

目次

  1. 暗号資産による資金調達方法
    1-1. ICOによる調達
    1-2. STOによる調達
    1-3. グラントによる調達
  2. 暗号資産の勘定科目
    2-1. 売上に計上される場合
    2-2. 雑収入に計上される場合
    2-3. 負債に計上される場合
  3. その他の考慮事項
    3-1. 時価、簿価の計算
    3-2. ステーブルコイン、NFTの取り扱い
    3-3. ガバナンストークン、ステーキング、ロックドロップの取り扱い
  4. まとめ

暗号資産の登場により、法定通貨以外の新たな経済圏が誕生しました。これまでの法規制や税制、会計処理などが当てはまらず、今まさに急ピッチで整備が進められています。

本記事では、その中でも特に複雑な会計処理に焦点を当て、暗号資産による資金調達をテーマに考察していきます。

筆者の経営する会社では、一般的な株式による調達に加え、2020年10月に暗号資産を使った海外からの調達を実施しました。机上の空論ではなく、実体験に基づいた考察を述べていきたいと思います。

暗号資産による資金調達方法

暗号資産は文字通り資産であるため、それによって事業を立ち上げるための資金を調達することができます。今後ますますグローバル化が進むことで、事業の立ち上げフェーズから海外展開も視野に入れておかなければならなくなるでしょう。

既にグローバルで共通の通貨として認識されている暗号資産を使って資金調達を行うことにより、事業を立ち上げる段階から海外を視野に入れることができます。暗号資産によって、資金調達の選択肢は劇的に広がったといえるのです。

ここでは、現状出てきている暗号資産を使った資金調達方法について紹介します。大きくは、「ICO」「STO」「グラント」です。

ICOによる調達

暗号資産を使った資金調達といえば、まずは「ICO:Initial Coin Offering」があげられます。ICOは、「IPO:Initial Public Offering」に類似する性質を持っていることから名付けられました。

IPOは株式の一般公開であるのに対して、ICOはユーティリティートークンに分類される独自トークンの一般公開です。暗号資産取引所に上場する前提で、世界中の投資家からビットコインないしイーサリアムで資金を調達します。調達側は、独自トークンを発行し投資家に対して付与し、自由な売買を認めます。

ICOによって、個人投資家でも未上場企業に投資することができるようになりました。世界中の企業を対象に、数千円、数万円の単位から投資できるようになったことも特徴です。なお日本では、資金決済法の範疇となっています。

一方で、IPOのように厳格な審査や契約が発生しないため、資金を調達したものの独自トークンを付与しなかったり、そのまま持ち逃げするといった事態が多発してしまいました。

STOによる調達

このようなICOの課題を解決する形で誕生したのが「STO:Security Token Offering」です。STOは、よりIPOに近いものとして分類され、証券をトークン化することで流動性を高めたものといえるでしょう。

ICOと比べて明確な法規制が存在し、STOを行うには金融庁からの認可を受けた特定の事業者を介在させる必要があります。そのため、ICOのような資金の持ち逃げが発生せず、投資家保護がしっかりと施されています。

一方で、投資家側はICOのように少額で投資に参加することができなかったり、投資に参加するのに一定の条件が必要だったりします。日本では、金融商品取引法の範疇です。

ICOで使われるトークンをユーティリティトークンと呼ぶのに対し、STOではセキュリティトークンを使用します。セキュリティは証券を意味するため、文字通り「証券のトークン化」だといえそうです。

グラントによる調達

3つ目はGrant(グラント)です。ICOやSTOは広く一般の投資家から資金を調達するスキームですが、グラントは特定の企業やプロジェクトから資金を調達するスキームになります。

グラントとは、多少強引に日本語に置き換えると「助成金」に相当する言葉であり、主にテクノロジー系の研究開発の文脈で普及してきました。OSS(オープンソース)の文化を背景に誕生したもので、今や海外では一般的な資金調達手法となっています。

グラントの場合、特定のプロジェクト同士で資金の移動が発生するため、そのプロジェクトが発行する独自トークンないしイーサリアムが使われることが一般的です。広く投資を募らないため意思決定が非常にスムーズであり、両者のメリットとなる契約に落とし込むこともできます。

グラントを使って資金調達する場合、基本的には資金提供側と受け取り側とでマイルストーンを設定します。このマイルストーンに従って資金が支払われる仕組みです。そのため、資金提供側は、自分たちに何かメリットが生まれるマイルストーンを設定する傾向にあります。グラントは、資金提供側にも直接的なリターンを発生させることができるのです。

一方で、いくつかのデメリットも存在します。先述の通り、グラントは広く一般の投資家から資金を募らないため、少額になるケースが多くなっています。また、事前にマイルストーンを設定するため、達成できなかった場合に予定通り資金を調達できない可能性もあるのです。

「ICO」「STO」「グラント」それぞれにメリットデメリットがあるため、ケースバイケースで選択する必要があるといえるでしょう。

暗号資産の勘定科目

ここからは、調達した暗号資産をどのように会計処理するかという点について触れていきます。先述の通り、暗号資産は文字通り資産であるため、当然ながら会計処理を行わなければなりません。

しかしながら、その特性上どの勘定科目に分類されるのか、どのタイミングで計上するのかといった疑問が浮上します。まずは勘定科目についてみていきましょう。主に「売上」「雑収入」「負債」に分類されます。もちろん全てのケースがこれに当てはまるわけではありませんので、実際の場面に遭遇した際には会計士にしっかりと確認してください。

まず論点となるのは、調達した暗号資産が「売上」になるのか「負債」になるのかです。株式によって調達した資産は、バランスシート上の純資産として計上されます。これは元々存在していた株式を対価として外部に放出し資金を調達しているためです。

しかしながら、暗号資産による資金調達の場合、調達した資金に対する元資産が存在しません。そのため、純資産として計上されず売上もしくは負債となるのです。

売上に計上される場合

基本的に、調達した暗号資産は売上として計上されます。これは、先述の通り調達した資金の対価となる支出がないため、営業活動による資金の獲得とみなされるからです。

そのため、期末時点で利益が出ていた場合には法人税の課税対象となります。暗号資産で資金調達することの大きなデメリットといえるかもしれません。

雑収入に計上される場合

本業における売上以外の収益のうち、大きな勘定科目のいずれにも当てはまらない少額のものを雑収入といいます。ICOの場合は、数億円から数十億円といった多額の資金を調達するケースが一般的となっているため売上として計上されますが、グラントの場合は少額に落ち着くことが多いため、雑収入として計上されるのが一般的です。

稀に、グラントの獲得をメイン事業にしている企業がいますが、その場合は雑収入ではなく売上として計上することができると考えられます。

負債に計上される場合

続いて、売上ではなく負債に計上されるケースについてみていきましょう。売上と負債の違いについてですが、ここが最も複雑であり暗号資産ならではのポイントになります。

ICOの場合、調達した資金と同額の独自トークンを投資家に分配しますが、この際にスマートコントラクトを使用します。このスマートコントラクトのプログラムに、返済処理を自動実行する条件が組み込まれていた場合、集めた資金は負債として計上されます。

例えば、資金調達目標を5億円に設定していたICOがあったとします。プロジェクト側はこの5億円を目標にICOを行いますが、もし5億円に達しなかった場合はそのプロジェクトの需要が市場に存在しなかったと判断し、集まった資金を投資家に返却すると事前に公表していたとします。この場合、一時的に集まった資金は負債として計上されるのです。

またICOの際には目標額に達したとしても、事前に定めていたロードマップ通りに進捗が出せなかった場合に、残った資金を投資家に返却するという取り決めを公表しているプロジェクトもあります。この場合も、将来的に返却する可能性がある資産として扱われるため、負債として計上しておくことになるでしょう。

ICO以外では、グラントの場合も負債計上されるケースがあります。先述の通り、グラントによって資金を調達する場合、資金提供側とマイルストーンを設定するのが一般的です。資金の提供が初回の一度切りである場合、仮にマイルストーンが達成できなかった際には提供された資金を返却しなければなりません。この場合も、前受金などの勘定科目で負債計上しておくことになるのです。

その他の考慮事項

最後に、暗号資産で資金調達する際に発生する細かな考慮事項について触れておきます。

時価、簿価の計算

まずは会計処理のタイミングについてです。暗号資産には高いボラティリティが存在するため、調達した際(ウォレットに送金されたタイミング)と法定通貨に換金した際とで価格のずれが生じるケースが少なくありません。その場合は、時価と簿価の処理をする必要があります。

これは米ドルなどで海外からの売上を計上する際にも同じことがいえるため、暗号資産特有の事象ではありませんが、会計処理を複雑にしている一つの要因だといえるでしょう。

ステーブルコイン、NFTの取り扱い

暗号資産の高いボラティリティを解消するため、昨今はステーブルコインの台頭が著しくなってきました。ビットコインやイーサリアムよりは、ステーブルコインを使った方が国際送金の場面では恩恵を受けることができます。

そんなステーブルコインですが、日本の現行法では法定通貨連動型のものは暗号資産として扱われていません。そのため、そもそもどのような勘定科目を使用するのかという問題が新たに発生します。

これは、NFT(Non-Fungible Token)でも同じことがいえます。NFTも、日本の現行法では暗号資産として認識されていないため、会計処理の際に一癖ありそうです。

ガバナンストークン、ステーキング、ロックドロップの取り扱い

暗号資産を使った資金調達には、より高度なスキームが続々と誕生し続けています。「ガバナンストークン」や「ステーキング」「ロックドロップ」といったものです。

いずれも論点となるのが、「スマートコントラクトにロックされている資産は誰のものになるのか」という点です。規制当局の理解では、秘密鍵を保有し自由に資産を移動させることができる者が、当該暗号資産の保有者として認識されます。

ステーキングなどによってスマートコントラクトに資産がロックされている場合、基本的にプロジェクト側はその資産を自由に移動させることはできません。しかしながら、ステーキングの条件として一度ロックしたら一定期間取り出すことはできない、といった内容が組み込まれている場合、ステーキングした人物ですらその資産を自由に移動させることができないのです。この場合、この資産は誰のものになるのでしょうか。

わかりやすい例がイーサリアム2.0における初期のステーキングです。イーサリアム2.0では、フェーズ0の段階で32ETHをステークしますが、一度ステークしたETHは一定期間引き出すことができません。もちろん、Ethereum Foundationもこの資産にはアクセスできないため、一時的にETHが宙に浮いた状態になるのです。

まとめ

暗号資産が誕生して10年以上が経過しましたが、未だ法規制やその他のルールは整備途中にあります。会計処理一つを取っても非常に複雑な状況になっており、今回その難解さを改めて感じました。

民主主義の社会において、法律は基本的に事後対応のスタンスを取っており、不確実な未来を予測して事前に制定されることはありません。そのため、小さくても国内で事例を作っていくことが非常に重要なのです。

日本の規制当局の動きが世界と比べて遅れてしまっているのには、我々事業者側にも責任があるといえるのではないでしょうか。規制に反することをやってはいけないということは大前提として、定めるべきルールが定まっていない領域では、当局とのコミュニケーションを取りながら積極的にアプローチしていく姿勢を継続していくべきと思います。

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