今回は、NFTのデータ分析サイトNonFungibleが公開した2020年のNFT調査レポート「The NFT Yearly Report 2020」について、田上 智裕 氏(@tomohiro_tagami)に解説していただきました。
目次
- 2020年の振り返りとグローバルメトリクス
1-1. 2020年の主なニュース
1-2. NFT市場の推移 - 暗号資産市場全体におけるNFTの状況
2-1. イーサリアムエコシステムにおけるNFT
2-2. ビットコインとNFT、イーサリアムとNFT - NFTを取り巻く環境
3-1. 人気IP・ブランドの参入
3-2. なぜNFTを購入するのか - まとめ
NFTのデータ分析サイトNonFungibleが、2020年のNFT調査レポート「The NFT Yearly Report 2020」を公開しました。NonFungibleによる年間調査レポートは今回が3回目となりましたが、2020年は世界的にNFT元年となったこともありとても中身の濃い内容となっています。
本レポートは、人気ブロックチェーンゲームのAxie InfinityやCryptoKittiesの協力のもとに作成されました。NFTといえばブロックチェーンゲームという印象がありますが、他にもデジタルアートや著作権などの用途にも使用されています。いくつかの注目すべきポイントについて見ていきましょう。
2020年の振り返りとグローバルメトリクス
まずは、2020年に起こった重要なニュースとグローバルメトリクスについて見ていきます。2020年はDeFiと共にNFT市場も大いに盛り上がり、マーケットデータも過去数年とは比べ物にならないほどの成長幅を記録しました。
2020年の主なニュース
2020年にNFTが急激な盛り上がりを見せたきっかけとしては、10月にローンチされたDapper LabsによるNBA Top Shotがあげられるでしょう。7月にはNFTの総売上高が1億ドルを突破していたこともあり、10月の人気サービスローンチで爆発的な普及を見せることになりました。
12月には、人気DJのdeadma5がNFTを使った作品を発表したことで、年末にかけて多くの著名アーティストが自身の作品をNFTとして発行しオークションにかけるといったトレンドが巻き起こっています。
資金調達関連では、3月にSandboxが200万ドルを調達したのを皮切りに、7月にはSorareが350万ユーロ、8月にはDapper Labsが1200万ドル、11月にはMintbaseが100万ドルをそれぞれ調達しました。
なお資金調達とは別で、NFTやガバナンストークンによるセールでも各プロジェクトは巨額の資金を獲得しています。
NFT市場の推移
こういった資金調達の加速と共に、NFT市場は2020年に急激な成長を記録しました。
アクティブウォレット数(+97%)やNFTを売買した人の数(売り:+66%、買い:+24%)を過去3年間で比較するだけでも、2020年がNFT元年であったことがわかるのではないでしょうか。総取引額に関しては、2019年比で299%もの急成長を遂げています。

2019年に約1億4,000万ドルだった市場規模も、倍以上となる約3億3,800万ドルにまで拡大しました。なおNFTの市場規模は、市場に存在する全てのNFTの価値の合計から算出されています。

NFTを含むブロックチェーン関連のメトリクスを算出する場合、スマートコントラクトを指標にすることが一般的です。特にアクティブなスマートコントラクトの数は、アクティブなプロジェクトの数を把握する上で重要な指標となります。
例えば、ウォレットの数だけを指標としてしまうと、プロジェクトに接続しただけで実際に取引は行なっていないウォレットを除外することができません。アクティブなスマートコントラクトの数は実際に取引が行われた数を意味するため、より正確な市場規模の算出などに使用することができるのです。

暗号資産市場全体におけるNFTの状況
続いては、暗号資産市場全体におけるNFTの状況です。ブロックチェーンによって発行されるトークンには、主にICOなどに使用されたユーティリティトークンとNFTがあります。
ビットコインやイーサリアムをユーティリティトークンに含めると、暗号資産市場のほとんどがユーティリティトークンとなりますが、その中でNFTはどれほどの存在感を持っているのでしょうか。NFTの現在地を測ることができると思います。
イーサリアムエコシステムにおけるNFT
2020年は日本でもDeFiが盛り上がりを見せましたが、DeFiと同様NFTの多くもイーサリアム上で発行されています。そのため、DeFiによって再び課題視されたイーサリアムのガス代問題の影響をNFT市場も受けることになってしまいました。
以下の図は、イーサリアムのガス代の価格推移とNFTの販売量を表したものです。図からも明らかな通り、ガス代(赤線)が高騰している際はNFTの販売量が減少しています。
先述のNFT市場規模の図をみると、2020年は約3.4億ドルとなりました。一方のDeFi市場は、2020年末時点で150億ドルとなっており、50倍ほどの開きが出ています。これだけの開きがある理由としては、ガス代が高騰したことでイーサリアムエコシステムからNFTがはじき出され、DeFiのみアクティブな状態になっていたことが考えられます。

ガス代との相関を含め、NFTの動向を分析することはイーサリアムエコシステム全体の様子を把握するのに役立ちます。以下の図は、NFTのトランザクション数がイーサリアム全体のトランザクションのうちどの程度の割合を占めているかについて記されたものです。

興味深いのは、2019年と比べて2020年の総トランザクション数が減少している点です。市場が成長しているのであればトランザクション数も増加しそうですが、これはイーサリアムのスケーリングソリューションが台頭していることを意味しています。
現在、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解消するためにセカンドレイヤーの開発が進められており、2020年はこれらのソリューションが実用化され始めた1年となりました。基本的に今回のようなレポートでは、ブロックチェーンに関するデータをオンチェーンのみから抽出するため、オフチェーンまたはサイドチェーンで処理される取引は数字として表れないのです。
ビットコインとNFT、イーサリアムとNFT
2021年入りNFT市場はさらなる急成長を続けていますが、2020年時点での暗号資産市場全体におけるNFTの存在感はどれほどなのでしょうか。以下の図は、ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の市場規模とNFTの市場規模の比較です。

ビットコインとイーサリアムの価格が高騰していることもありますが、NFTの市場規模は2020年時点でビットコインに対して0.17%、イーサリアムに対して1.01%にとどまっています。これらの数字が2021年を終えた時点でどのような変化を記録しているのか、今後の動向に注目が集まりそうです。
なお、NFTの多くはイーサリアム上に発行されていることから、イーサリアムの価格が高騰するにつれてNFTの売買は活発になる傾向があります。NFTの価値はイーサリアムで表示されることが多いため、価格変動時は投資対象としての変化を感じやすいのではないでしょうか。
NFTを取り巻く環境
レポートの後半では、NFTがメインストリームになるにはどうすればいいのか、といったテーマが用意されました。中でも、IP(Intellectual Property)やブランドの参入、投資家はなぜNFTを購入するのかといったトピックについてまとめられています。
人気IP・ブランドの参入
Dapper Labsの提供するNBA Top ShotにおけるNBAをはじめとして、既に多くの人気IPやブランドがNFT市場に参入しています。主に「ビデオゲームスタジオ」「スポーツ」「ファッション」「エンターテイメント」「アート」「インフラストラクチャ」のカテゴリがあげられ、それぞれ次のようなIP・ブランドが紹介されました。
ビデオゲームスタジオ
- Capcom:Street Fighters
- スクウェアエニックス:The Sandbox
スポーツ
- Formula 1:F1 Delta Time
- NBA:NBA Top Shot
- レアル・マドリード:Sorare
ファッション
- ナイキ:CryptoKicks
- LVMH:Louis Vuitton、Christian Dior
エンターテイメント
- BBC Studios:Doctor Who
- Warner Music:Investment in Dapper
アート
- Christie’s:NFT-bound artwork
- deadmau5:NFT collectibles launched on WAX
インフラストラクチャ
- Microsoft Azure:Azure Heroes
- IBM:Custom blockchain with NFT support
- Samsung:Wallet Supporting NFT
こういった人気IP・ブランドは、NFTの可能性にいち早く気付き、真っ先に取り組むことで先行者としての利益を得てきました。Animoca BrandsのCEOであるRobby Yung氏は、NFTの盛り上がりについて「ブロックチェーンのマスアダプション」と「ゲーマーの財産権」の2つの要因が関係していると説明しています。
NFTは、まずはじめにゲーム市場によって導入が進み、NFTで何ができるのかを事例を持って市場に示すことができました。Yung氏は、NFTは世界中のゲーマーをブロックチェーンに呼び込む最適な方法だと言及しています。
なぜNFTを購入するのか
レポートの最後では、投資家はなぜNFTを購入するのかについて考察されました。レポートを通して行われたアンケートによると、NFTの購入者は単に投資対象としてのみNFTを購入しているのではなく、コレクションの一部として購入していることが示唆されています。
NFTの価値は、ブロックチェーン上の単なる資産ではなく、自身の表現手段の一種であるといいます。例えば、特定のNFTを保有していることで参加できるコミュニティが存在していたり、NFTの保有者しかアクセスできないコンテンツがある場合、そのNFTは売買目的ではなく保有目的で購入されることが多いのです。
レポートでは、NFTを購入することはそれがアートであってもゲームキャラクターであっても、同じ情熱を共有する他の保有者とNFTを通してコミュニケーションできる点が最大の特徴だとされています。
実際、異なるNFTサービス間のうち、全体の10%がクロスコミュニティ化しているとのデータが出されました。例えば、DecentralandにおけるNFTの保有者はThe SandboxでもNFTを保有しています。NFTは、全てのプロジェクトに持続性のあるコミュニティを作り上げる重要な役割を果たす可能性を秘めているのです。

まとめ
2021年に入りNFT市場の爆発的な成長が続いていますが、2020年の動向を振り返ることで今年がNFTにとってどのような1年になるか少し見えてきたのではないでしょうか。
DeFiと同様、投資対象としての盛り上がりは一時的なものとなる可能性が高く、やはりNFTの本質に目を向けていくことが重要だと思います。そういった意味では、NFTをなぜ購入するのか、といった観点はとても大切だといえそうです。
今回が3回目となったNonFungibleのレポートですが、NFT急成長の2021年を経て4回目となるレポートが公開されるのを、今から楽しみに待ちたいと思います。
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田上智裕

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